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2017-08-12

バイラの恩返し

あれは10年間の発表会。私は初めてのマントンを手に、意気揚々と舞台へと上がった。この日のために新調したマントンは3万5千円。大胆な刺繍の入った豪華なものだった。しかし振りを間違えることなく、順調に踊るカーニャが中盤に差し掛かった時、勢いよく振り上げた私のマントンのフレコが、パレハを踊る友人のペイネタに絡みついてしまった。何があっても動きを止めてはいけない舞台で、踊りながら頭に絡むフレコを外そうとする彼女は、踊りきるまで笑顔を絶やすことがなかった。そして舞台を降りたあとも私を責めることなく、泣きながら謝る私を慰めるために、食事まで御馳走してくれた。「こんなこと舞台ではよくあることよ」。数年先輩だった彼女が笑顔で繰り返してくれた言葉。でも私は笑顔に戻ることはできず、そのマントンを押入れに封印した。二度とカーニャを踊ることもなかった。
10年たった先日の発表会でのこと。グァヒーラの群舞で、友人のアバニコが私のアバニコを叩き落とした。私は固まる友人に精一杯の笑顔を見せ、動きを止めることなく踊りきった。そしてあの時の私と同じように泣き崩れる友人に「こんなこと舞台ではよくあることよ」と笑った。くしくも10年前に私が連れてきてもらったファミレスで、同じ場所で同じセリフを言ったのだ。あの時彼女にもらった恩を、やっと返せた気がした。同時に自分も呪縛からも解かれた。私は来月ソロでカーニャを踊る。あの時のマントンとペイネタを身にまとって。

(神奈川県・ミカエラ/38歳)

<パセオフラメンコ2009年12月号 掲載>

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