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2017-09-09

あなたの笑顔のために

 月に一度、慰問に行く老人ホームに、比較的若い「おじさま」が入居していました。なんでも難しい持病を持っているため、奥様に先立たれたあと、息子さんたちに引き取られるのが難しく、医療完備の施設に入居したそうです。しかし、家族に捨てられたと思い込み、心を閉ざしてしまったおじさまは、踊りを見ても一度も笑ういことはなく、触れ合いタイムではいつも私の手を振り払いました。私は傷つき、そして傷つく自分に落ち込みました。理由があるから仕方ないと説明されているにも関わらず、感情が先立つ自分が悲しかったのです。
そんなおじさまが、ある日、私の手を握り「明日一緒に釣りをしよう」と言いました。ホームの庭でめだかを釣るイベントでした。私が特別に参加させてもらうと、おじさまはその日、終始笑顔で、最後に「フラメンコが月に一度の楽しみなんだよ」と小さな声で言ってくれました。「今まで傷つけて悪かった。許してもらえるとは思っていない」と。その瞬間誰が慰めてくれても晴れることのなかった私の心が嘘のように晴れました。私の方こそ、おじさまのこと解っていたのにあまり好きじゃないなんて思ってしまったことを、とても後悔しました。
おじさまの前で踊るのが憂鬱だったフラメンコを、今ではおじさまのために踊っています。おじさまの喜ぶ顔を見るためだけに、練習しているような気がしますが、それが自分の喜びでもあるのです。次回は明るく楽しいアレグリアスが見たいそうです。

(横須賀市・ラディ/27歳)

パセオフラメンコ20124月号 掲載

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